4EU強化オイルポンプの開発

TZR/TZM50RやRZ50の所謂「4EU系」エンジン向けのボアアップキットとして、2020年現在はデイトナをはじめとしてオートボーイやキタコ、リップス等のボアアップシリンダーが市場に流通している。(2022年現在、ほぼすべてのメーカーが撤退し、現状のメジャーな選択肢としてリップスのボアアップキット以外の選択肢が無くなっている。おそらくメーカーの新品シリンダー在庫が製廃になればこちらも絶滅するであろう。)

デイトナのボアアップキットによると、給排気系が純正の場合はそのままのオイルポンプで良いとされている。昔の2stのボアアップキットでも、そのような場合が多いだろう。実際、純正の分離給油というものは安全マージンがあるので、その範囲内に収まるレベルであれば、混合を使わなくても良いという考えだ

いいわけ無いだろうが

数百キロの距離を移動する私にとって、出先でぶっ壊れるのは死活問題。常に全開で回し続けても焼き付かない程度にきちんとした適正量の油膜をマージン込みで維持したい。(焼き付く場合は大抵燃調が悪いのだが…)

4ストロークエンジン、特にモンキーやエイプなどのエンジンであれば、強化オイルポンプというものが販売されている場合が多い。
しかし今は令和の時代。2stの強化オイルポンプなんてものは販売されているはずがない。ジャイロキャノピーなどは、分解可能なオイルポンプのため改造によって吐出量を増大させるなどが可能なようだ。おそらく、3TU系のエンジンについてもオイルポンプが分解可能なので可能だろう。
しかし、4EUエンジンのオイルポンプは分解不可能な形状をしている物がほとんどだ。唯一、TZR50Rのある世代のエンジンにのみ、DT230やTZR125Rなどと同一構造のオイルポンプが搭載されており、それは分解改造が可能ということらしい。じゃあやってみようじゃないか……

最初から改造可能なオイルポンプの存在を知っていたわけではなく、最初は輸出モデルの同一クランクケースを使用しているTZR80RRの4BAエンジンのオイルポンプを使えばいいんじゃなかろうか、という試みを思いつきました。
しかし、eBayで当該のブツを買うにしてもちょっと種類も多くて想定しているブツがきちんと届くかわからん!ということで半ばあきらめていたところに、Twitterでそのポンプの情報が飛び込んできました。

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TZR50Rのオイルポンプ

この樹脂プーリーのタイプのオイルポンプは、プランジャ径と取り付け穴形状がTZR125やDT230ランツァと同じなんですね(寸法を実際に私が計測したわけではないですが、多分プランジャまで一緒なんだから間違いないと思われる)
カム山でオイルポンプのプランジャストロークを制限することで圧送量を変化させているということは、そのカム山を削ればストロークが増えます。

ジャイロキャノピーの改造とかではオイルポンプの加工記事が検索すればヒットします。


シェイリン@Shaerine_Fluent

@Tank_make @taweg9 ここで、排気量毎にオイルの吐出量が違うはずだと思いましたのでSMよりスペックを調べました。
TZR50R(後期型) 最小ポンプストローク 0.09mm
        最大ポンプストローク 1… https://t.co/0lpGNZyH6T2020/06/15 00:04:50

上記ツイが消えたときのために転記

TZR50R(後期型)
最小ポンプストローク 0.09mm 最大ポンプストローク 1.13mm
TZR125R(4FL)
最小ポンプストローク 0.20mm 最大ポンプストローク 2.78mm

つまり、プランジャの上下を最も制限しているTZR50Rのカム山が一番高いので、TZR50Rのオイルポンプを買ってばらしてカム山のプロファイルをいい感じにしてやれば80ccとかの排気量に合ったオイル混合量になるはずなので、分離のまま乗ることができるはず。純正のカムを削らなくても、3Dプリントでカムを作ることもできると思うので、自由なカムプロファイルに設定することができるでしょう。

ということで、オイルポンプ買ってきたので検証開始

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インサート抜けるな

このオイルポンプの分解時、ゴムのメクラ栓を外す必要がありますが、固着している場合は無傷で摘出することは不可能です。そのくせ部品設定がASSYなので発注も不可能(たぶん裏型番は存在していますが特定が不可能です)。
しかし、こちらは汎用のオイルシールが市販されていますので、それで代用可能です。DT230,TZR125等の同型オイルポンプも同様に使えるはずですので、ぜひ試してみて下さい。

NOK ボアプラグ RCA型 型番:RCA 15-5
モノタロウ:https://www.monotaro.com/p/8312/4825/

純正が厚み4.5でこれは厚み5ミリですが、問題なく使用できます。

話を本筋に戻しますが

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で、このカム山の黒いところを

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削りました。ちなみにプロファイルは適当です。多めに削ってあるのでたぶんオイル多すぎるくらいだと思います。少なくとも純正よりかは削ってある以上、吐出量は増えるはずなので、このまま50ccに取り付けて乗るとオイルが濃すぎてパワーダウンする程度で壊れやしないと思います。

しかし!今や貴重な製廃のカムを削って無駄に消費するのもダメだろうということで、3Dプリントでカムを発注してやろうということになりました。

DMM.makeのナイロン印刷であれば、おそらくナイロン12のため耐油性、耐摩耗性、剛性などに問題はなさそうです。問題は寸法誤差の吸収ですが…

とはいえ、先にカムを削ってしまったので、純正のカムの状態があまりわからないまま作ることに。どうせ楕円で作れるやろと思いましたが、色々と甘かった。

スクリーンショット 2021-01-13 020315

これが現在最新版の寸法誤差込みのボアアップオイルポンプカムのデータです。次の図は、それを純正カム(後日ヤフオクで落とした)に落とし込んだ図になります。

Eri_AWUVEAAQnnz

全閉時はカムが最も高くなる付近でプランジャの動きが最も制限されるのですが、もう少しヤマが低いようです。
私は単なる円と楕円で形成されていると思いこんでいましたが、どうやら違うようで、実際はこう

Eri_qrAUUAIOhsn

二重円と楕円が正しいようです。今後はこの情報も用いてボアアップオイルポンプカムの設計を進めていきたいと思います。(とはいえ、試作段階では高すぎる山をヤスリで削るだけになりそうです)

2024年追記:よくよく考えると、カムプロファイルというものは、本来カムの動作角に応じてどの程度開いていくのか、ということをもとに設計するはずで、その時角度に対してリニアに開度が大きくなっていく必要があります。
さらに開度が小さい間はおそらく円形で問題なく、開度が最大付近になるとまた一定の開度に変化するはずで、それらを踏まえると、本来的には最小と出漁を決める円+中間吐出量を決める楕円+最大吐出量を決める円 で構成されるべきかと思われます。それを踏まえてさらに設計に盛り込みます

スクリーンショット 2021-01-13 023641
怪しいグラフ

まあ少なくとも、純正より吐出量が増えていれば焼き付くことはないと信じて作っていこうと思います。

試作が完了すれば次は各種強度試験を行い、ボアアップして性能試験を実施したいと思います。

長距離試験も当然ながら実施し、高回転域での焼付きの心配もなさそうだと確信できた場合、カスタムパーツとしてキット販売を行おうと考えています。
オイルポンプの形状が大きく変わってしまうので、それと並行して専用のカバーもRZ50向けに制作します
ご期待ください。
2022年現在 油浸長期試験中→2024年 長期油浸の結果、膨潤・劣化を認めず。使用可能と判断

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